「もしも、現代のアメリカで内戦が起きたら?」
そんな衝撃的なIFを描き、観る者に強烈な問いを突きつける映画『シビル・ウォー アメリカ最後の日』。ヒーロー映画とは全く異なる、生々しく、そして恐ろしいほどのリアリティで描かれる本作を、今回はAmazon Prime Videoで鑑賞しました。
この問題作について、あらすじやキャストの紹介とあわせて、正直な感想を語っていきたいと思います。
作品概要
『シビル・ウォー アメリカ最後の日』(原題:Civil War)は、『エクス・マキナ』で知られるアレックス・ガーランドが監督・脚本を担当。 そして、『ムーンライト』やアカデミー賞を席巻した『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』など、話題作を次々と世に送り出す制作会社A24が、史上最大の製作費を投じたことでも注目されています。 日本での公開は2024年10月4日です。
あらすじ:ジャーナリストが見た、分断された国家の姿
連邦政府から19もの州が離脱。アメリカは「西部勢力」(カリフォルニア州とテキサス州が同盟)と政府軍による内戦状態に陥っていた。 3期目に突入した大統領がホワイトハウスに立てこもる中、戦場カメラマンのリー(キルステン・ダンスト)を始めとする4人のジャーナリストは、大統領への最後のインタビューを敢行するため、ニューヨークから約1,300km離れた首都ワシントンD.C.を目指すことを決意する。 しかし、その道のりは戦場そのもの。彼らは道中で、内戦の狂気と恐怖をまざまざと目の当たりにすることになる。
キャスト
本作は、兵士ではなく、内戦を記録し、伝えようとするジャーナリストたちの視点で描かれます。
- リー・スミス(キルステン・ダンスト):数々の戦場を経験してきた、著名な女性戦場カメラマン。
- ジョエル(ワグネル・モウラ):リーの同僚で、大統領へのインタビューを目論む男性記者。
- ジェシー・カレン(ケイリー・スピーニー):リーに憧れる若手の女性カメラマン。
- サミー(スティーヴン・マッキンリー・ヘンダーソン):ニューヨーク・タイムズの巨漢ベテラン記者。
- 大統領(ニック・オファーマン):3期目を務める独裁的な大統領。
- 赤サングラス兵士(ジェシー・プレモンス)(リアルではキルステン・ダンストの夫):恐怖の赤グラサン男。
【正直レビュー】期待していたものと、”違った”点
さて、ここからは正直な感想です。ポスターの雰囲気などから、今のアメリカが抱える政治的な分断が内戦に発展する…というような、社会派でリアリティのある戦争映画を期待していました。
しかし、見終わった後の率直な感想は、「あれ、こういう話だったのか…」という戸惑いでした。
期待とのギャップ:これは「戦争映画」ではなく「ジャーナリスト映画」
本作の主軸は、内戦そのものの政治的背景や詳細な戦闘描写ではありません。 あくまでジャーナリストの視点を通して断片的に内戦を描き、むしろ物語のメインは「若手女性写真家ジェシーの成長物語」といった趣でした。
そのため、アメリカの政治的分断や、内戦のリアリティを期待して観ると、正直がっかりするかもしれません。「こういうのが観たかったんじゃない」と感じてしまう可能性は高いです。
ここは必見!本作の3つの見どころ
とはいえ、もちろん魅力的な点も数多くありました。
1. 「なぜ」を語らない、圧倒的な“体感型”の恐怖
この映画は、内戦が「なぜ」始まったのかをほとんど説明しません。 観客はジャーナリストたちと共に、理由も分からぬまま突然暴力が支配する世界に放り込まれます。鼓膜をつんざくような銃声、いつ誰が敵になるか分からない緊張感は、説明を排したことで、分断そのものがもたらす不条理な恐怖として際立っていました。
2. ジャーナリストの視点から問われる「真実」
目の前で人が死んでいく日常の中でも、感情を押し殺し、冷静にシャッターを切り続けるジャーナリストたち。 その姿は報道の使命を問いかけると同時に、危うさもはらんでいます。「撮る(shoot)」と「撃つ(shoot)」が同じ単語であるように、カメラは時に武器よりも鋭く現実を切り取るのかもしれません。
3. 最大の見どころ!赤サングラス兵士の尋問シーン
個人的に、この映画で最も緊迫感が半端なかったのが、60分過ぎから始まる、あの“赤グラサン”の兵士による尋問シーンです。何を考えているか全く読めない不気味さ。「お前は“どういう種類のアメリカ人”か?」という問いに、どう答えれば撃たれずに済むのか…。観ているこちらも固唾を飲んでしまう、本作最大の見どころと言っても過言ではないでしょう。
まとめ:結局、何を見せたかったのか?
終盤はワシントンD.C.での市街戦からホワイトハウス突入と、ようやく派手な戦闘シーンが描かれます。しかし、そこに至るまで、若手写真家ジェシーの未熟な行動に少しイライラさせられたり、物語に乗り切れない部分もありました。
「若い女性写真家の成長物語」と「アメリカ内戦の恐怖」という二つのテーマが、少し散漫な印象を与えてしまったのかもしれません。観る前に何を期待するかで、評価が大きく分かれる作品だと感じました。一つのエンターテイメントとして強烈な体験をしたい方、そしてA24作品のファンなら観る価値はありますが、リアルな戦争映画を期待している方はご注意を。
【前編】宇多丸『シビルウォー アメリカ最後の日』を語る!
https://www.tbsradio.jp/articles/89028/
【後編】宇多丸『シビルウォー アメリカ最後の日』を語る!
https://www.tbsradio.jp/articles/89029/
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